観客を圧倒する音と映像の秘密はどこに?本誌10月号掲載の体感レポートを補う形で、炭山アキラ氏による「映像美の補足原稿」と、編成部長&映写部長へのロングインタビューを公開。極爆サウンドとスクリーンの裏側を、余すところなくお届けします!

炭山アキラ、映像美を語る
月刊「ステレオ」誌の10月号に、立川シネマシティの【極上爆音上映】を紹介した。なにぶん紙幅には限りがあるし、また本誌はピュアオーディオ雑誌であることから、映像についての論評はばっさりカットしてしまったが、シネマシティの画は音に勝るとも劣らぬクオリティを持つ。
今回取材させてもらった(a)スタジオは、フィルム上映も可能な設備がそろえられているが、今回体験したのはデジタル上映だった。4K対応の最高峰レーザープロジェクターがその任を担う。
皆さんは、映画館のスクリーンに気を配ったことがおありだろうか。映画館は画面のセンターにスピーカーを排する都合上、小さな穴がびっしりと開いた「サウンドスクリーン」というものが用いられている。半世紀も前の映画館は、鑑賞中にも気になって仕方ないほど穴が大きい、粗悪なスクリーンが張られていることが珍しくなかった。
ところが(a) スタジオには何と、スチュワート社のサウンドスクリーンが用いられているというではないか。至近距離まで近づいても肉眼で見えないほど穴は小さく、それでいてスクリーンの存在を感じさせないほど自然な透過音を持つ、世界の逸品である。同社のスクリーンは映像のきめが細かく発色が自然なことにも定評があり、【極上爆音】と相まって映画の世界へ没入させてくれる。【極上爆音上映】の回でなくとも、ぜひ体験してほしいクオリティである。(炭山アキラ)
編成部長・椿原 敦一郎&映写部長・雨宮宏治インタビュー

メイヤーを選んだ理由と、画へのこだわり
―PA機器(本誌では高級SRと紹介)の強いメイヤーですが、シネマシティで導入に至った経緯を教えていただけますか?
雨宮 聴き比べてみて、音が一番良かったそうです。シネマシティ現会長、井出音研究所の井出さん(シネマシティのサウンドデザイン担当)、増旭さん(シネマシティのシステム設計担当)たちが、大きなホールを貸し切って様々なメーカーを試聴した上で選ばれたとのことです。
椿原 音がいいってことで選んだメイヤーですけど、今の音ができあがるまでにどれだけの映画をかけたことか。【極上爆音上映】も、最初に始めたときはセッティングがうまくいかないときもあって…。今はほんとによく鳴っています。
―機材へのこだわりは、スピーカー以外にもあるんですよね?
雨宮 スピーカーの良さを出すために、それらを取りまとめるDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)にも、同じくメイヤーの「Galileo GALAXY816」という高級機種を使っています。メイヤーのいいところは、フェイズ特性がフラットだっていうこと。ギャラクシーはこれをうまく引き出します。

椿原 うちは画も綺麗ですよ。
雨宮 プロジェクターも突き詰めてますし、カラーキャリブレーション(制作時の意図を正確に再現するための調整)もとことん煮詰めていますよ。もし画がボケてしまえば、それが気になって音に集中できなくなりますから。だからこそ、画もべらぼうに綺麗に見せます。スクリーンも、発色性と音の透過を兼ね備えたものを使っています。
―音の透過というと、センタースピーカーはスクリーン裏だからですか?
雨宮 はい。スクリーンによる音の減衰は顕著です。高域の減衰は横軸でみるとロール・オフします。そこがなるべくフラットに出せるように、発色性も高い「スチュアート」というスクリーンを使っています。高価なので全部の劇場には使えていないんですけど(笑)。
―シネマシティさんのいくつかの劇場は、サイドスピーカーが外出しです。これは音の透過性を考えてのことですか?
雨宮 そうです。映画は基本的にLRのチャンネルに音楽が入っていているので、それをなるべく素直な音で聴いてもらいたい。そのためには、スピーカーは出したほうがいいというのが、シネマシティの設計思想です。
―サイドスピーカー外出しの映画館って、あんまり多くないですよね?
椿原 まあ、ないっすね。昔はテレビもスピーカーが外に出ていたのにね(笑)。
雨宮 そうなんですけど、スピーカー外出しには、いい面と悪い面があるんです。スタジオで映画を製作している側からすると、サイドスピーカーを外出しにすることで、センタースピーカーとの音色差が気になるようです。音の繋がりを欠くことを嫌う人もいらっしゃいます。音を完全に透過させて聴かせることが絶対的に良いかと言われると、そこは、意見が分かれところなんですよ。われわれシネマシティでは、透過させる方を選択しています。
椿原 建物自体や内装もこだわってますよ。
雨宮 環境をデッド(反響/残響がない状態)にし過ぎないことが大事です。シネマシティは計算された残響感を目指して作られています。他の映画館とは違うこだわりの一つです。

毎作品ごとに行なう徹底チューニング
―普段のメンテナンスはどのように行なっているのですか?
雨宮 映画には世界基準の規格があります。それを元に定期的にマイクで測定し、基準値に入っているかと、スピーカーが歪んでいないかをチェックしています。
―シネマシティでは、映画毎に音響をチューニングしていると伺いました。それはなぜですか?
雨宮 映画は、作品ごとに作っている人も違えば、スタジオも違います。洋画ならスカイウォーカー・サウンドだったり。
椿原 邦画なら東宝スタジオや角川大映スタジオだったり。
雨宮 国や人種が違うと、音の作り方が全然違います。また、映画によってはあまり音に予算をかけられない作品もあります。そういったものをいざ劇場でかけると、製作者の意図していない音が聞こえてしまうこともあります。様々なことを汲み取りながら、より製作者の意図に近い形で上映するために、作品毎に劇場側のチューニングの検討と必要に応じた音響システムの調整をしています。なかなか大変な作業ですけどね。
―他の映画館でも、作品ごとに音響調整はされるのでしょうか?
雨宮 一般的には、あまりしないようですね。シネマシティの音響が話題になり始めて以降、追随する映画館も出てきているようです。
―これまでで印象的だったエピソードはありますか?
雨宮 いっぱいありますね。【極爆】【極音】に関しては、増旭さんがメインに行っていますが、たまに僕も作品の音響監督さんとタッグを組んで調整させてもらっています。音作りの現場にいる音響監督さんが思う音と、劇場でかける音は、感覚が違うんですよ。ニアフィールドとファーフィールドでは聴こえ方が違う。その差から、音響監督さんと意見の相違が生まれることもあるのですが、それを乗り越えて、距離感や空間を加味して音を落とし込んでいくのは、燃えますね。
ホームオーディオと映画館サウンドの違い
―弊誌はホームオーディオ雑誌です。家庭での再生と映画館の音響、一番の違いはどこにあるとお考えですか?
椿原 元々はフィルム時代の頃にいろいろ規格ができて、デジタル録音やマルチチャンネル素材が出始めたころに、ホームオーディオの世界はすごく発達しました。その頃は、映画館の音を自宅でも追体験できることが凄いとされていました。基本的には今でも、立ち位置としては、家庭より映画館が上であるべきだと思っています。シネマシティのようなこだわりの音を体感してもらって、それを自宅で追体験するとい考えでホームオーディオ/シアターをやって欲しいですね。そういう音をシネマシティは目指しています。
雨宮 僕もホームオーディオやホームシアターを研究しています。ハイエンド・セッティングをされている方のお宅に訪問させていただいたり、お話を聞かせてもらったり。その時によく感じるのが、ダイナミクス・レンジや奥行きがホームナイズドされて小じんまりしていることが多いです。
―それはなぜでしょう?
雨宮 市販のソフトは家で家庭再生用に音を作り直しています。なので、スケール感がちょっと落ちるんです。なので、自分が思ったよりもちょっとスケール感の大きい再生システムを考えていくと、ホームシアターはまた一つ上に行けるんじゃないかなと思います。
―雨宮さんのご自宅の再生環境は?
雨宮 音楽も映画も、職業柄もあってかプロオーディオ寄りな音を作っています。PA用のスピーカーでセッティングしています。
―プロオーディオ機器を好まないオーディオファンもいらっしゃいますが。
雨宮 個人の好みと、現象的に正しい音、これはまた違うものと思います。私見ですが、個人のオーディオファンの方々は、好みの音がいい音だという傾向が強いと感じています。先日とあるスピーカー製作の品評会で聴いた基準となるスピーカーの音ですが、ちょっとポンコツで、自分とは乖離がありました。そういった音を軸に自己流で発展させていくと、変な風に広がってしまうのではないかと危惧しています。
サウンドバーとラインアレイ
―最近はやりのサウンドバーはどうですか?
椿原 ものにもよりますが、値段を考えたらバカにできないですよ
雨宮 基準を映画館におくと、ちょっと物足りないですが、僕もいいと思っています。ただ、サブウーハーが別体でついているタイプは、ちょっとスピーカー同士の繋がりがちょっと悪いかな。サウンドバーの音とサブウーハーの音の間に窪みを感じます。疑似サラウンド的なものは、家庭の中で聴くとしてはよくできていると思います。ただ、スイートスポットが狭いですね。技術的にしょうがないかと思いますが。
―映画館ではラインアレイが多いですよね。家庭での実用性ありますか?
雨宮 ないですね。ラインアレイは、技術概念的に長くないといけない。家庭だとその幅が難しい。長くないと線状にできなくて、ただのポイントソースです。低域で100㎐だと波長の幅は何mって単位になります。高い周波数だと数㎝なので線状音源にしやすいですが、中域がリッチになりすぎて音が詰まる現象もある。家庭でラインアレイにするメリットはないかな。
―立川駅のホームのスピーカーがラインアレイ・スピーカー(JVC PS-S103BS)になりましたね。指向性が狭いので、隣のホームと音が混じらない。

雨宮 ラインアレイのベターな使い方ですよね。今は技術が進んでいて、同じスピーカーからでも、ここは日本語、ここは英語、ここは中国語ってコントロールできるくらいになっています。
バウスシアターとの違い、懐かしの映画館サウンド
―『爆音』といえば、吉祥寺バウスシアターでも『爆音上映』をやっていましたよね。シネマシティの『極上爆音上映』、どういった違いがあるのでしょうか?
椿原 バウスシアター様がノウハウを公開しているわけではないですが、音を寄せていくセッティングをしていたと思います。
雨宮 あと、サブウーハーを使っていなかったですね。低音というよりは、ハイ(高音域)をいかに爆音で出していくかってタイプの音作りに感じました。
椿原 相当高いPAシステムを使っていたらしく、私はよく通っていました。好きだったな。
―個人的には、レトロな音も好きです。ラジカセとかポータブルプレーヤーとか。最近の映画館はどこも最新システムばかりですね。昔ながらの音を楽しめる映画館はないのでしょうか?
雨宮 レトロな音がいいってのはわかります。僕もラジオの音が大好きです。シネマシティだと、JBLの2000番台のホーンをjスタジオでまだ使っていますよ。
椿原 オープンしたての頃は、木造時代に使っていたアルテック「ボイス・オブ・シアター」のお下がりを使ってDTSを鳴らしてましたけど、今は使わなくなりましたね。高知県の大心劇場さんなんか、昔のスピーカーをまだ使っているんじゃないですか?
雨宮 あと、カーボン映写機使っているとこもスピーカー古そうですよね?
椿原 福島県の本宮映画劇場ね。あとは、昔ながらの音といえば、ほとんど音が出なくなっても改修するお金がない、だから仕方なく昔からのスピーカー使い続けたピンク映画館とかですよ。私も昔は、相当いろんなピンク映画館に行きましたよ。もうスピーカーがボロボロで、最前列に座って耳を澄ませないと音が聴こえないんです。セリフがわからないから、物語が理解できない。しかも映写室の窓が開けっぱなしで、そこからフィルムの映写音がダダ漏れになって、それがまたうるさくて。そういう映画館が、20世紀中盤のスピーカーをずっと使い続けてたわけですよ。けどもう、ほとんどなくなっちゃいましたね。
読者へのメッセージ
―弊誌の読者に向けてコメントをお願いします。
椿原 彼(雨宮)がこだわって劇場環境を守っています。今回は花形のaスタジオを取材していただきましたが、どこのスタジオもこだわっています。画がぶれないで、音に没入できるので、お気に入りのサウンドデザインを見つけて、耳を肥やして楽しんでいただければと思います。この映画の音は誰が作っているんだろうって関心を持つくらいのマニアックさがあると嬉しいな。そうしてくれれば、作り手の人も喜ぶんじゃないかな。
雨宮 映画体験は音で180°変わります。つまらないと思った映画が、シネマシティのような音のいい映画館で観ると、実はこんなに面白かったんだと意識が変わる。僕はそう信じています。ぜひ、シネマシティを体感していただければ嬉しいなと思います。
―本日はありがとうございました。
本誌10月号の体感レポートとあわせてお読みいただくことで、極爆サウンドの魅力がさらに立体的に浮かび上がります。
ぜひ本屋さんで『ステレオ10月号』もチェックしてみてください。


