※このレポートは、stereo 2021年9月号に掲載された記事ではページ数の都合でやむなくカットした部分を含む、取材記事の「完全版」です。(写真・文 編集部)
エンジニアリングの考え方が詰め込まれたTozzi One
「どれだけスピーカーケーブルが邪魔をしているかがよく分かりますよね。一番分かるのはスピード感です」と語るのは、マークオーディオ代理店フィディリティムサウンド代表の中島紀夫氏。
ABS樹脂製のウェイブガイド採用のリアバスレフスピーカーは、マークオーディオ代表マーク・フェンロン氏が設計した「Tozzi One(トッティ・ワン)」。店内でも特に異彩を放っている特徴的なルックスだ。もともと、大きな2wayのようなもので企画されていたそうだが、中島氏が日本では小さいスピーカーの方が見込みあると進言したことで戦略を変更、さらにマークオーディオのユニットは余計なものを入れるとすぐに音に反映されてしまう性質があるので、できるだけ余分なものを出さないスピーカーをとリクエストしたところ、作られたのがこのデザインのものだったという。
対応スピーカーユニットはメタルコーンであるが、そのメタルに対してABS樹脂はダンピングファクターがあることが作用し、メタルコーンの音にしてはまろやかな印象だ。ABSで筐体を作る価値はそこにあるという。ウェイブガイドを付けている理由も8cmの動作を補うためで、華奢な外観でありながら、実際の音を聴かせるとみな驚くという。
話を最初に戻すと、Tozzi Oneにはパッシブとアクティブとがある。アクティブはパッシブと両用でき、背面には四十七研究所代表木村準二氏によるアンプが取り付けられている。今回は整備済みアンプとの比較を行なった。
まずは、内蔵アンプ。音は鮮明だ。「マグロで例えるなら、マグロを切って角が立っているような音がします。エンクロージャーとアクティブのコンビネーションもとてもいい。構造上、サイドパネルが薄いので吸音材を入れてアップグレードができる。いろいろ遊べるので楽しめると思います」と木村氏が語る。高野氏も、「聴き比べてみると、アクティブアンプの反応の速さ、鮮度の高さが特徴的ですね」と続く。ハードオフ整備済みSANSUI「AU-888」でも試聴。「低音の量感や存在感はこちらに分があるが、スピード感はやはり内蔵アンプのほうが良い!」と一同。
その他のTozzi Oneのユニークな特徴として挙げられるのは、底板部分にスタンドを取り付けることができるので、さまざまな場所に設置ができる楽しみも用意されているという点だ。カメラ用の三脚があれば設置することができてしまうというが、中島氏の場合はマイク用のスタンドに83のコンバーターのネジを入れ、三脚用のネジを組み合わせてマイクスタンドの丸い部分に載せて使用しているという。
「壁に取り付けることができるようにというのが、おそらくマーク・フェンロンの設計コンセプトなんでしょうね」と中島氏。高野氏も「そうえいば、以前お客様から『これ天井から吊るせたらいいな』と言われたことがあるのですが、この取り付け部分を利用してスピーカーをひっくり返して使用することでそれが実現できますよね。店長もこれを買って、テレビの脇に置いて使っているそうですよ。やっぱり音声がクリアになって帯域もピンとが合って、臨場感が違うと言っています」と、現場ならではの視点からTozzi Oneの楽しみ方のヒントを提示してくれる。
オーディオは木の色や黒色が主体だが、リビングに置いたときにこのような鮮やかな色のスピーカー(カラーはレッド/パール/ブラックの3種類が用意されている)が本格的な音で鳴っていたら、デザインとしてもとても面白いものがあるだろう。
オペラ歌手の口と同じサイズの振動板でクリアでリアルなサウンドを!クリアサウンズのブックシェルフスピーカー
8cmスピーカー繋がりで、高野氏が店頭にあるスピーカーを紹介してくれた。クリアサウンズの「S-08」だ。音が鳴り始めた瞬間に、一同「いいじゃない!」と感心しきり。下に置く台によってもまた鳴き方が変わるという。このサイズでここまで鳴ってくれたら、集合住宅にお住まいで音の出し方に気を遣う必要がある方でも、十二分に上質なサウンドを楽しむことができることだろう。
中島氏「8cmスピーカーって、人間の口の大きさと同じなのでボーカルが一番自然に聴こえるんですよね」
高野氏「クリアサウンズも同じことを言ってました。オペラ歌手の口のサイズっていうのがうたい文句なんです。これ、無垢材のスピーカーで、スピード感も速い音なので木村さんも好きな音かなと思います」
木村氏「おもしろい音だったね」
中島氏「軽いですけど、きれいですね」
高野氏「エンクロージャーは片方で500gしかないんですけど、逆にこの木だからこの音が出てるんじゃないかと思うんです。ターミナルも一番軽いやつを使ってます。でも、びっくりすると思いますよ。是非聴いてほしくて!」
木村氏「天然⽊のスピーカーって、やっぱりいい音するよね」
名機センモニ対決! ハードオフ整備品 vs ノーメンテ現状中古品
次はモニタースピーカーとして知られる名機YAMAHAの「NS-1000M(センモニ)」の聴き比べをしてみよう。用意されたのは、リペアされたものと、そうでないものだ。リペア品の方は、全ユニットオーバーホール再塗装で、見た目も美しく、ネットワークコンデンサーも高品質のものに変更されている。この修理代だけで数十万円もかかっているという。
実際に聞き比べてみた。本来モニタースピーカーのはずだが、各帯域クオリティが高く、近年の高額ハイエンドスピーカーに勝るとも劣らない音色だ。中島・木村両氏も「1000Mはモニターサウンドの音作りの印象だったが、オーディオとして十分通用する高い完成度で仕上げてある」と称賛。それではリペアされていないスピーカーの方はどうか。買い取られて以降、特に何も処理が施されていない状態のものだ。同じ曲を聴いてみる。
開始数秒で中島氏が「ダメだ。高域が歪んで音楽になってない」と止めが入った。木村氏は「楽しい音がしないよな。モニタースピーカーだからか、意識して『響き』を殺してるんだろうな」と分析。驚くべきことに、整備品と未整備品とではこれだけの違いがあるということだ。
裏を返せば、現状、オークションや中古で手に入るスピーカーは、こういった類のものが多いということでもある。実際にあった話だそうだが、店舗でリペアされた音を聴いた顧客が、オークションで安く出ていたものを見つけて安いからいいやと思い買ったところ、思っていたのと全く違う音で驚いたそうだ。リペアとはこういうことだ。安く売っているのはネットで散見されるが、きちんと整備された音が買えるわけではない。
「全然違う世界ですよね。見た目は同じでも全く違う。例えて言うなら、40数年前の車を未整備のまま車検も一回も通さずに乗りますかという話なんですよ」と高野副店長。
プロがリペアするから、その音が出る。店舗で実際に聴き比べて、その差を体感してみてほしい。
「ROGERS 『LS3/5a』」の音に一同酔いしれる
モニタースピーカー繋がりで、BBC仕様のポータブルモニタースピーカーシステムとして知られるロジャースの「LS/5A」の試聴も行なった。小型高性能スピーカーの先駆けとなった、2wayのブックシェルフスピーカーで、15Ωシングルワイヤー仕様。
中島氏「箱を鳴らしてますね」
高野氏「手で触るとビンビン来るくらい、鳴ってますね」
中島氏「鳴らすのが悪いのか、そうでないのかは永遠の議論ではあるんですが、全然鳴らさないより、やるならこのくらいやった方がいいと思いますよ。倍音成分って、素材によって楽器の音色に影響をすごく受けるですが、必要悪でスピーカーの木の響きで倍音を出すと本来の楽器の倍音の比率になるんですよね」
高野氏「私は数十年前にこの音を聴いていいなと思って以来、ずっと使っています。ただ、能率が悪いので音量をそれなりに出さないといけないですけどね(笑)。でも、これに関してはあまりこちらで手をかけてないのですが、それでもこんないい音が鳴るんですね」
木村氏「ずっと長持ちするということは、それだけ音がいいんですよ!」
高野氏「箱の鳴りっぷりはいいですよね」
中島氏「箱って原理を分かっていないと、いくらいい木を使ってもそれなりの音しかしないんですよね」
木村氏・高野氏「なるほど!」
木村氏「でも、ヨーロッパの音だね」
高野氏「日本の音ではないですよね。国民性出ますよね」
木村氏「誰だったかヨーロッパのエンジニアが、日本のスピーカーを聴いて『日本の音楽は弾(はじ)く楽器が多いのか』と質問したって言ってたよ。向こうは擦る楽器が多いけど、日本には擦る楽器があまりないから、国民的にそうゆう音楽に馴染んでるのかって質問してたってね」
JBLの名機ランサーをSANSUI製エンクロージャーに組み込んだオーディオサロン仕様「L101」!
JBLの名機ランサー「L101」をハードオフオーディオサロン吉祥寺店にて整備し、SANSUI製エンクロージャーに組み込んだというスピーカーを試聴した。
JBLとSANSUIは、当時SANSUIがJBLを輸入していたこともあり、SANSUIにてJBLユニットを組み込む想定のエンクロージャーを用意していた。そのことから、ユーザー自身でエンクロージャーにJBLユニットを組み込み、「JBL○○仕様」を多様に作り出せたという歴史がある。
今回の取材では、「吉祥寺店仕様」を試聴した。ユニット「LE14A」をリコーンし、スピーカー端子のネジ交換やクリーニング、フレームやマグネットの塗装、マグネットリングの研磨など多岐にわたるメンテナンスが施されている。「ネットワーク『LX10』は、コンデンサー交換、ターミナル交換を行なって電気の通り道をしっかり整備することで、本来のネットワークの持つ音色が蘇ります。」と高野副店長は語る。ドライバー「LE175」はユニファイネジ交換、ターミナル交換と行なっており、音が出ない場合は極力オリジナルのダイアフラムを入手し交換して修理しているという。
音質面もさることながら、入念な工程で外観の研磨や再塗装が施され、新品発売当時のような仕上がりとなる。それが当時の記憶を蘇らせ、昔のオーディオを懐かしむために足繁く通っているという方も多いという。実際、木村氏がここに初めて来店した際には「昔の秋葉原みたいだ!」と感じたという。
この他にも、ハードオフオーディオサロン吉祥寺店には、新旧問わず非常にたくさんの名機がずらりと並んでいる。近くに立ち寄る機会があれば、是非足を運んでみてほしい。きっと思いがけないお宝にめぐり逢えることだろう。
次回は、なかなか見られないハードオフオーディオサロンの「内部」に潜入し、アンプの整備の模様をお届けしたいと思う(2021年9月17日公開予定)。
ハードオフオーディオサロン吉祥寺店
●住所:〒180-0002 東京都武蔵野市吉祥寺東町1-4-27 アソルティ吉祥寺エスト3F
●電話番号:0422-27-6891
●営業時間:11:00 ~ 21:00(土日祝は10:00 ~ 21:00)
●定休日:年中無休
●アクセス:JR中央線・京王井の頭線「吉祥寺駅」から徒歩約7分。吉祥寺サンロード商店街の突き当たり左手。道路渡った向かい側。五日市街道沿い。モードオフ吉祥寺店隣り。
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