
キヨトマモル氏が試作したMMカートリッジが面白いことになっている。事の始まりは「stereo」2020年2月号掲載「俺流スピーカー! 邪道を往く」の企画の中で、キヨト氏がヴィンテージジョインオリジナルのMMカートリッジを持ち寄ったことだった。その空気感と細かい音に圧倒された一同だったが、その詳細を探るべくオーディオライター田中伊佐資氏がインタビューを試みた。
※この記事は、「stereo」2020年3月号に掲載された記事の中で、誌面では文字数の都合でやむなくカットした部分も含む完全版です。今回は「後編」の試聴編です! 「前編」はこちら。
いざ、比較試聴!
田中 じゃあ、早速聴いていってみましょうか。これ録音がめっちゃいいよ、元MONKEESマイケル・ネスミス。

Cosmic Partners: The Mccabe’s Tapes
――最初はSHUREのM44で試聴。その後、「ソリッド」で同じ曲を聴く。
田中 ギターショップかなんかの小さな場所でのライブ音源なんだけど、そういった空気感が出てますよね。M44はベタっと全部前に出てきていて、そんな音なのかなと思っていたんだけど、やっぱりソリッドになりますね。楽器も一音一音正確にきちっきちっと出てきた。生音が多い演奏ですけど、「ソリッド」でも面白い。
キヨト 臨場感がとにかく出ますよね。
田中 ドラムのパカッ、パカッという音が明確に出てきてる。
キヨト これを「アコースティック」で鳴らしたらどうなるのか、聴いてみましょうか。
――「アコースティック」で同じ曲を試聴
田中 アコースティック楽器主体のライブだし、ギターの音が全然違うね。
ヨシノ アコギのボディ感(がたまらない)!
田中 そうだね、アコギのボディ感出てて、響きが出てる。そして、これでソリッドって言ってた意味がわかった。なるほどエレキギターだったら「ソリッド」の方がバチっと出てくるんだなというのが想像つきますね。
キヨト アコギって、けっこう綺麗に出すのがレコードでは難しいと思うんですよね。
田中 パリっとしすぎてもキツいし、ゆるいとなんかダメだし。その加減が難しいですよね。
ヨシノ でもボディ感と音源の金属感のおいしいところが出てますよね。
キヨト 「アコースティック」のボディに貼っているのはメイプルなんです。「ソリッド」にはマホガニー。
田中 あ、それだけでこんなに違っちゃうんですか?
キヨト もちろんそれだけじゃないですけどね。中身も少し変えてますけど。
田中 それにしてもまいったなあ、こんなに明確に変わっちゃうんだもんなあ。やっぱり両方持っていてもいいんじゃないですか。
キヨト 逆に「ソリッド」だったらどんな音源がいいと思う?
田中 これなんかどうよ。クラプトンのライブ盤。

E.C. Was Here
――「ソリッド」でEric Claptonを聴く。
田中 ずいぶん違いますね。驚くほどに。エレキの突進性というか、ビシってくるのはこっちですね。
ヨシノ 正直、「ソリッド」はどうなんだろうと思ってたけど、これ聴くと「ソリッド」もいいですね。(笑)
キヨト 優秀な音じゃなくて「気持ちよさ」を求めてるというのを、なんとなくでも分かってもらえたんじゃないかな。「アコースティック」の気持ちよさと「ソリッド」の気持ちよさがいい感じで出ているんじゃないかと思います。
田中 テクノ系やユーロビート、ファンク系なんかだと絶対「ソリッド」でしょうね。ボーカルはどうでしょうね、「アコースティック」?
キヨト 歌手にもよるでしょうし、好みにもよりますね。クラシックは「アコースティック」でしょうね。生楽器の響きは楽器をしている人にも納得してもらえる仕上がりにはなってると思います。ただ、「アコースティック」にしろ「ソリッド」にしてもいやな音はしてないですよね。そこが大事。
ヨシノ 次にかけてほしい盤があるんですけど、いいですか? 酔った勢いで買っちゃったやつなんですけど。これ最高なんっすよ。 ブッカー・アーヴィン。

The Freedom Book
田中 ジャズはどっちかな。
ヨシノ でもこれ、ジャズだけどフリーキーですよ。アコースティックなんだけど、振り切れた演奏。
キヨト ジャズは「ソリッド」じゃないかな。
――「ソリッド」でブッカー・アーヴィンを聴く。
田中 バッチリだね。
ヨシノ かっこいいなあ。疾走感のあるジャズは「ソリッド」が合ってるな。
――「アコースティック」で同じ曲を聴く。
田中 丸くなったね。
ヨシノ 響きがある感じがしますね。
田中 自分は「ソリッド」だな。
ヨシノ 聴き方なんでしょうね。
キヨト さっきも言ったけど「アコースティック」も「ソリッド」もいやな音ではない。でも、違いは明確だよね。

Four & More
――「アコースティック」でマイルス・デイビスを聴く。
田中 これは「ソリッド」が楽しみだね!
ヨシノ これは「アコースティック」じゃないかなあ。響きがいいんだよなあ、ジャズは「アコースティック」でしょう!
田中・キヨト ええっ? そう?
田中 意見が分かれたね。(笑)
キヨト 最近ヨシノさん音の傾向が変わってきてるよ。昔もうちょっとトゲがあったのに。(笑)
ヨシノ そんなことまで分かってしまうカートリッジ。(笑)
――「ソリッド」で同じ曲を聴く。
田中 いやあ、素晴らしい。自分は絶対に「ソリッド」ですよ。
キヨト ウッドベースとシンバルの音は「アコースティック」の方が全然いいですね。広がりがある。
ヨシノ 「ソリッド」は最前列で見てるような迫力がありますね、
田中 僕は「ソリッド」の方が汗かくなあ。これはもう汗かき盤だから。(笑) 家に誰もいないのを確認して、じっーとひとりで心地よく大きな音で聴いて、一曲聴いてバタンと倒れて二曲目をもう聴く体力残ってない、みたいな。(笑)名盤ですよね。
「ソリッド」「アコースティック」を比較して
ヨシノ 両方買いだな。
キヨト ふたつ買わないと楽しめないですよね。
田中 片方買っちゃうと、もう片方が「どう来るのかなあ」って気になって結局ふたつ買っちゃうんじゃないかな。
キヨト 「ソリッド」「アコースティック」といった名前の付け方のカートリッジってあんまりないんじゃないかと思うんですよね。大体値段によってランク付けして「高いのがいい」っていう違いだけで、横の違いがない。
田中 安心して買えるカートリッジだね。
ヨシノ 何かほかに注意事項みたいなものはありますか?
キヨト このカートリッジは最低でも4~5時間のエージングが必要になります。なので、その点だけお願いしたいですね。
ヨシノ これだけのクオリティの商品だから、使ってたら楽しくて4~5時間なんてあっという間に過ぎてしまいそうですよ。(笑)
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